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男性相談員

2015.04.11 UPDATE

愛知県立大学名誉教授 須藤八千代

2001年4月、横浜市のソーシャルワーカーから大学の教員になって次の日、私は名古屋市男女平等参画センターの相談事業のあり方研究会の座長を依頼された。それは前任者からの申し渡しだったようである。それを引き受けておよそ5年はこれに関係する仕事が私の中で大きなウエイトを占めた。

今、ソーシャルワークが「相談援助」という日本語に置き換えられている。私自身はこれにある違和感を感じているがその是非はひとまずおいて、31年のソーシャルワーカーの仕事は相談を受けることから始まり、援助プロセスの途中においても、また終結した後かなり時間を置いても、クライエントから相談が追いかけてきた。

そういう意味で相談という日本語の二文字がもたらすリアリティは、私の身体に浸み込んでいる。それだけでなく現場にいるとき「相談の女性学」研究会を弁護士や研究者と立ち上げ、また「相談のニーズ調査」を実施して報告書にまとめ、2005年には『相談の理論化と実践―相談の女性学から女性支援へ』(新水社)を出した。さらに今、相談の現在に焦点をあててもう一冊の本も企画している。こうなると私と「相談」は切り離しがたい。

前の本から10年たって編集する新しい「相談」論は、前著にはない「男性相談」と「東北大震災の経験に基づく相談事業」また「外国人を対象とする相談」を入れた。その中でも男性相談は一番ホットな話題かもしれない。

これまで婦人相談員(女性福祉相談員)や男女共同参画センターの相談は、無前提に男性を排除してきた。そこには男性・加害者、女性・被害者という構図と、女性という「弱者」の保護と支援いう社会的な要請があった。

しかし自殺者に占める男性の比率や加害者である男性へのアプローチの重要性、また「男だって悩むし相談したい」という男性学の視点などから、男性相談のニーズは高まり、国も自治体もこれに取り組み始めている。すでに内閣府は2013年に「地方自治体等における男性に対する相談体制整備マニュアル」も作成した。

そして男性相談のために男性の相談員の設置が進んでいる。名古屋市も2010年にスタートした。これは名古屋市に限ったことではない。私が疑問に思っていることは、これまで女性の相談は女性相談員がやってきた。そこに男性の相談員を置くことはなかった。女性の問題、女性の相談は男性の相談員ではできない、という前提を疑問視することがなかった。

それと同様に今、男性相談は男性の相談員が受けるというシステムが、相談事業で無前提に承認されている。私はこのルールに理論的戸惑いを強く感じた。女のことは女しか分からない、男のことは男しか分からないというのだろうか。 すなわちこれでは理論的にはずっと前にのりこえた本質主義に、相談事業は立ち戻ったままではないだろうかという疑問である。フェミニズムはこれを厳しく批判し、女と男の本質主義を脱却したのではなかったのか。

男性相談は男性というセクシャリティが不可欠なのだろうか。そう私が強く感じるのは、単にフェミニズム理論からだけでなく、私が横浜の寿町という1万人の男たちが住むドヤ街で6年、ソーシャルワークをしてきたからである。

男性相談が本格的にスタートした今こそ、この核心を本気で考えるときである。相談事業の理論的、実践的成熟はこのような問題をのりこえたところに実現するような気がしている。